マーラーの交響曲第5番

マーラー交響曲第5番は妙なる調べを響かせている。トランペットの響きからはじまり、うねうねとユダヤ教曼荼羅を表現しているようだ。マーラーの真骨頂ここにあり、と言わんばかりだ。これはもはや哲学だ。聴衆はこの妙なる調べを解き明かしていくしかない。ひとり、ひとりで。苦悩するマーラーの姿が調べの一音一音に表されている。細かい指示がことこまかく楽譜に書きこまれているのだろう。トランペットの3連符がしつこいが、それが効果的に聴衆をマーラーワールドへいざなってくれる。そこには苦悩・不安・絶望・希望・悟りが入り混じっている。第5番の調べは、マーラー自身の小宇宙ではなかろうか。霊性的な鉱脈が湧き出ている。
 かと思えば、自由奔放さには度肝をぬかれてしまう。マーラー自身指揮者であったため、オーケストラの楽器の特性を知り尽くしていた。だから、個性を全面に押し出した調べの交響曲を書くことができたのではあるまいか。
 第5番はなにか「さすらう」感じがあり、安定というものを欠いているようでならない。しかし、調べをよく聴いてみると一音一音がきらきらと輝いている。ため息がでるくらいに。まるで魔法のような調べだ。そして、マーラーは一楽章、一楽章の終わりに「ど派手」な終わり方をこの曲で聴かせている。